「老後2000万円」の貯蓄が必要?

 金融庁の金融審議会は、年金だけでは老後の資金を賄えず、九十五歳まで生きるには夫婦で二千万円の蓄えが必要になると発表しました。つい先日まで「年金100年安心」などと言ってきたのに、いったいどうなっているのでしょうか?
 いまさら2000万円準備しろと言われても困ってしまいます。実際、貯蓄ゼロ世帯は3割近くにおよび、退職金のない会社も増えています。生活の安心がなければ、ますます消費は冷え込むでしょう。10月の消費税増税で景気が悪化しないか懸念されます。
 今年は5年毎に行われる年金の財政検証の結果が公表されます。前回は6月初旬に公表されましたが、選挙への影響を考慮して、選挙後に発表されるとの噂があります。国民生活よりも選挙を優先するような不誠実な政治を許してはなりません。
 今の政権は自己責任型社会を前提としています。例えば国民年金の場合、月に約6万5千円が給付されますが、これでは生活できません。貯金を食い潰していくことになります。毎月「あといくら残っているか」貯金通帳を見ながら老後を過ごすのは、あまりにも酷ではないでしょうか。そして、貯金がなくなったら生活保護を受けることになります。実際、生活保護受給者の半分以上が高齢者となっています。
 もう少し助け合う社会、「共生社会」を目指し、安心して老後が過ごせるようにすべきではないでしょうか。日本人はまじめで勤勉な国民性を有していますが、幸福度は世界五十八位で、幸せだと感じている人が少ないことがわかっています。幸福度一位はフィンランド、2位はデンマークです。税金は高い国ですが、働く時間は短く、一人当たりのGDPは日本より上です。日本も生活の安心が感じられる社会にすべきではないでしょうか。

【消えた年金】
 2007年の第一次安倍政権の時に、年金データの取り扱いが極めてずさんであることが判明しました。そして、約五千万人の年金が適切に管理されていないことがわかりました。安倍首相は「最後のお一人にいたるまできちんと年金をお支払いしていく」と繰り返し説明してきました。しかし、十二年経った今、未だに約二千万人のデータが回復できていません。そして、第三者委員会は解散してしまいました。こういったことの積み重ねが、年金不信につながっていきます。

【年金の株運用】
 安倍政権は年金積立金約150兆円の半分を株式投資しています。長期的な運用を行っているものの、2018年度第3四半期は約15兆円のマイナスとなりました。会計検査院は「2014四年以降、株式運用の割合が増加してリスクが上昇している」と異例の指摘をしました。
 アベノミクスでは、株価が下がりそうになると日銀が株買いをし、株価を支えています。既に約29兆円もの株を買っていて、例えばTDKの大株主になっています。しかし、いつまでも日銀が株を買い続けることはできません。アベノミクスがつまずくと、私たちの年金も吹っ飛んでしまう可能性があります。金融政策は重要ですが、過度なリスクを背負うような投資は行ってはなりません。

【安心した年金制度】
 自己責任型社会からもう少し安心して生活できる共生社会に変えるべきです。年金制度は助け合いの制度です。しばしば「払った分が戻ってこないから納付しない」というような話を聞きますが、受取り額は何歳まで生きるかで変わってきます。得した損したという話ではなく、誰もが安心して長生きできる制度にすべきです。
 そのためにも働き手がしっかりと働ける社会、子どもが欲しいと思う人がしっかりと子育てできる社会を作ることが重要です。介護の領域に十分な投資をしないので、一向に介護離職は減りません。子育て政策にきちんと力を入れてこなかったから、外国人の力を借りなければならない社会になってしまいました。社会の土台を支えている人たちがしっかりと働ける環境を整えることが喫緊の課題です。

2019年6月15日号「『老後2000万円』の貯蓄が必要?」