電通の高橋まつりさんの事件をきっかけに、長時間労働の問題が再度クローズアップされました。「過労死ゼロ」を目指して労働法制の強化が必要です。しかし、安倍政権は長時間労働の規制とセットで裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制度を入れ込んできました。では一般労働と裁量労働で働く環境はどう変わるのでしょうか?労働政策研究・研修機構の調査では、一般労働よりも裁量労働の方が労働時間が長いという結果が得られています。
 これに対して安倍総理は「裁量労働の方が労働時間が短いというデータもある」として問題となっている厚労省のデータを持ち出しました。しかし、それらのデータは前提条件が異なり比較できるものではなく、また、元データそのものが不正確であることが明らかとなりました。
 過去に裁量労働制で働いていた方が過労死した事例はたくさんあります。20代の印刷会社勤務の男性は自ら命を絶ちました。「午前1時過ぎ帰宅、3時就寝、6時半起床、7時過ぎ出勤。少なくとも80時間以上の残業をしている
月が複数」裁量労働制の方は勤務時間を記録していない場合が少なくなく、労災も認定されにくいとのことです。
 ずさんなデータを基にして制度拡大をすべきではありません。しっかりと再調査すべきです。また、長時間労働の規制法は裁量労働制の拡大などとは切り離して議論すべきです。なぜセットでしか採決しないのか、安倍政権の考えは見え見えです。
 日本はヨーロッパ諸国と比べて働く時間が長いです。しかし、一人当たりのGDPは低く、働く効率が悪いことがわかっています。また、国民幸福度は低く、自殺者が多いことも知られています。「命より大切な仕事」などありません。きちんとした調査なくして労働基準法の改正はあり得ません。

過労死等防止対策推進全国センター
(2015年3月26日)
 現在、安倍内閣は、「高度プロフェッショナル制度」と「企画業務型裁量労働制の拡大」を柱に、労働時間制度の大幅な規制緩和を強行しようとしています。わたしたちはすでに前者に対しては、一定範囲の正社員を対象に、残業代なしに、時間外・休日・深夜の別なく、労働者を無制限に働かせることができる制度であって、過労死・過労自殺を増加させる恐れが大きいという理由で、反対声明を発表しています。後者についても、現状でさえ同制度の適用労働者の過労死・過労自殺が後を絶たないことから、あらためて反対意思を表明するものです。
以下省略

日本労働組合総連合会
(2018年2月22日)
働き方改革関連法案をめぐる問題についての談話
 開会中の第196通常国会に提出予定とされている「働き方改革関連法案」の取り扱いをめぐり、比較すべきではないデータを比べるなどの混乱が生じている。連合はこれまで、時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金の法整備などは早期に実現すべきであるが、高度プロフェッショナル制度の創設および企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大は実施すべきではないとの考え方を一貫して主張してきた。この二点に働く者が強く反対している声を国会は受け止めるべきである。
以下省略

髙橋まつりさんのお母さん
twitter(2018年3月1日)
 裁量労働制の適用範囲拡大の今回の断念の理由はデータ不備を認めたからにすぎない。野党の追及を認めた訳ではない。過労死防止のためでも、長時間労働の助長を危惧したものでも、私たち遺族の訴えが届いた訳ではない。働き方改革は労働者を守るためのものではない。生産性をあげるための経済政策。

高度プロフェッショナル制度とは
 特定の業務に従事する、年収1075万円以上の人が対象。成果を出せば数時間で帰宅できる一方で、休日や深夜を含め残業代が支払われなくなります。対象業務はまだ決まっていませんが、金融商品の開発、金融商品のディーリング、企業・市場等のアナリスト、事業についてのコンサルタント、研究開発などが検討されています。年収の要件は「一部の高所得者だけが対象」との印象を与えますが、いったん導入されると政令でどんどんと下げられる可能性があります。日本経団連は以前のホワイトカラー・エグゼンプションの提言で、年収400万円以上を想定していたようです。

裁量労働制とは
 一般労働の場合は1日8時間勤務など勤務時間が決められていて、その時間を超えると残業代が付きます。一方、裁量労働は勤務時間が決まっておらず、自由に働くことができます。ノルマをこなせば、10時に出勤して16時に退社しても良いです。しかし、ノルマがこなせない場合は、1日10時間、12時間と長時間働かなければなりませんが、その場合に残業代は付きません。「残業代ゼロ法案」と呼ばれている理由です。問題はノルマの量で、この量が多い場合は慢性的に長時間労働を強いられる可能性があります。

2018年2月28日号「命よりも大切な仕事などあるの?」