6月19日の衆議院経済産業委員会での上関原発に関する質問が、週刊金曜日 1240号 (2019年7月12日発売)に掲載されました。(以下本文)
「原発の新増設は想定していない」との大臣答弁と矛盾
中国電力がいまも狙う山口・上関原発の建設
2011年の東京電力福島第一原発事故後、「原子力立国」を謳う政策はなりを潜めた。
今後、原発の新増設はなされないと信じて疑わない人も少なくない。
だが山口・上関原発の新設計画はなくなっておらず、建設のための埋立免許は第2次安倍政権以降、脱法的に延長され、いままた再延長の手続きが進められつつある。
「想定していない」新設が止まらないのはなぜか。不可解な状況を報告する。
山秋 真
原発の新設のため、海の埋め立て準備や税金の投入が続く。上関原発(山口県上関町)のことだ。
原発の新増設・リプレースは「現時点において想定していない」と6月19日の衆議院経済産業委員会で世耕弘成経産大臣が答弁。上関原発は「新設にあたる」と、資源エネルギー庁担当者の答弁もあった。宮川伸議員(立憲民主)の質問に答えたものだ。
だが、それに先立つ6月10日、上関原発の建設のために中国電力は埋立免許の再延長を山口県に申請している。どういうことか。
「事業者や自治体の判断でなされることはある」「埋め立て工事の許可は私の権限でない」と、世耕大臣。宮川議員はこう返した。「大臣の権限が、ある」。
山口県が埋立免許の再延長を許可しようとする理由は、国が上関原発を重要電源開発地点に指定しているからだ。だが「重要電源開発地点の指定に関する規程」(以下、「規程」)によれば、指定要件のいずれかに適合しなくなった時、経産大臣は指定を解除できる。その要件の一つは「計画の具体化が確実であること」だ。政府が想定しない原発新設の計画を「具体化が確実」と見なせるか。上関原発の指定を、なぜ解除しないのか。宮川議員はそう問うた。
埋立免許は今も更新中
重要電源開発地点(以下、「地点」)とは、推進することが特に重要な電源開発地点として国が指定した地点のこと。2003年10月の「電源開発促進法」廃止を受けた04年9月の閣議了解に基づき05年に「規程」が施行され(2月)、上関原発も指定された。資源エネルギー庁によれば、指定目的は、電源開発の促進のため必要となる地元合意形成や関係省庁における許認可の円滑化を図ること。期間は「指定を行なった日から運転を開始した日まで」という。
では運転開始が想定されない場合はどうなるか。論理的には、関係省庁での許認可手続きが進み、電源三法交付金は地元自治体へ交付され続ける。だが「上関原発は事業者の計画や地元状況に変化がなく、事業者から『地点』解除の申し出がない。解除する事情がない」と世耕大臣。「計画の具体化は確実なのか」と宮川議員が重ねて問う。世耕大臣はこう答弁した。
「上関原発は事業者が計画遂行の意向で、法令上の必要な手続きや一定の地元理解が進んでいるから、計画の具体化が確実な電源だと考える」。ただし「原発の新設を認めるかどうかは、規制委員会が判断すること」だと言う。
結果的に、原発の新設に交付金が出続けている。11年度以降で総額約28億円(毎年度約8000万円の電源立地地域対策交付金、11、12年度に計22億円程の原子力発電施設等立地地域特別交付金)。世耕大臣と資源エネルギー庁担当者が答弁した。やはり、計画や地元状況に変化がなく、事業者から「地点」解除の申し出もなく、交付を打ち切る理由はないという。
どういうことなのか。宮川議員に後日、話を聞いた。
「国が新設しないと言っているのに、埋立免許の再延長が許可されるのも、交付金が出続けるのも、おかしな話だ。『地点』指定の解除は、事業者が申し出ないとできないわけではない」と宮川議員。17年5月に共産党の大平善信衆院議員(当時)も「『規程』では経産大臣が指定解除できる」と経産委員会で指摘している。
政権交代で政策変遷
計画も地元状況も変化した。たとえば「地点」に指定された05年、上関原発は「13年完成」とされたが、現在は着工も営業運転開始も「未定」となっている。
「東電の福島第一原発事故で、原発政策は破綻した。高速増殖原型炉もんじゅは廃炉が決まり、核燃料サイクルは事実上、絵に描いた餅だ。10万年管理しなければならない高レベル放射性廃棄物の最終処分場は決まらない。いまや、一時の財源のために『上関に原発を』と言う人には、最終処分場も上関町に作ることでよいかと問いたい」と宮川議員は話す。
ところで上関原発の交付金は、民主党政権下で原発ゼロが打ち出された時も交付が続いた。世耕大臣が6月19日の答弁で言及している。この件で宮川議員は、「民主党政権が当時、どこまでこの問題の認識があったかわからない。わかっていたら止めていたはず。世耕大臣は現在、気づいているのだから、しっかり(政策を)直し、止めるべきだ」と訴えた。
ここで当時を振り返ろう。12年9月、「今後のエネルギー・環境政策について」が閣議決定され、「原発の新増設は行なわない」との原則が示された。
10月5日、上関原発もその原則の適用対象だと、枝野幸男経産大臣(当時)が定例記者会見で発言。ところが中電は同日、すなわち埋立免許の期限全日、延長を山口県に申請した。だが6月に山口県の二井関成知事は、免許の延長を認めない方針を表明、後任の山本繁太郎知事もそれを引き継ぐとしていた。この状況での延長申請は、同県選出の安倍晋三衆院議員が9月26日に自民党総裁に就いた影響かと囁かれた。
10月9日、枝野氏は記者会見で、「報告によれば、中電の埋立免許の延長申請はプロセスを前に進めるものでなく、当面の現状維持が目的。(上関原発を)進めさせないことは間違いない。どういう形で止めていくか、影響を受ける自治体にも配慮し、十分調整した上で決める」旨、発言をしている。
10月23日、延長申請の審査に必要だと、県は中電に説明を要請。その回答期限の3日後、11月16日に衆議院が解散された。その後も県は説明要請を重ねた。2回目の回答期限の前に総選挙が行なわれ、第2次安倍政権が発足した。3年10カ月先送りした末の県の判断は、延長「許可」となった。
この埋立免許の可否判断の先送りは違法だとして損害賠償を求めた住民訴訟で、山口地裁が18年7月に出した判決文は、県の判断留保を「裁量権の逸脱」で「違法」としている。
「新設密約」があるのか?
説明責任も法治主義も軽視され、上関原発が止まらないのはなぜか。「新設しない方針を謳いつつ、新設するという密約が裏であるか、いわゆる『安倍・麻生道路』同様、安倍総理のお膝元である山口県への利益誘導で残しているか。どちらかしかない」と宮川議員は指摘する。地元のみならず全国の市民が、もっと怒らなければならない事態なのだ。どうすればいいか。
「上関原発の交付金について、会計検査院がキチンと検査しているか注視する。交付金の決算が正しく行なわれているか、国会の決算委員会で確かめる必要もある」と宮川議員。「よい助成金や交付金を、国会議員が考えるべき」と続けた。37年前から原発計画で分断され、急速に進む過疎高齢化への打開策を協力しあって講じる機運を奪われた地元に、原発がらみとは違う形で、新しい町づくりのための交付金を考える。それは「政治的な判断で可能な、まさに政治家の仕事だ」という。
この7月3日、山口県が6月27日に埋立免許の再延長に関して中電に説明を要請していたと報じられた。県は今回、どう判断するか注視が必要だ。16年8月には、上関原発は「地点」指定されており国のエネルギー政策上の位置づけがあると、免許の延長を許可している。だが「地点」指定に原発建設を強制する効力はないと、戸倉多香子・山口県議は指摘する。「地点」指定は、電源開発促進法の廃止を受けて意義や機能が継承された「規程」に基づき実施されるにすぎず、「法的位置づけはなく、埋立免許を再延長する根拠とはならない」と話す。
埋立免許が再延長され海上ボーリング調査が始まれば「また阻止行動をする」と、還暦近い祝島の女性は話していた。地元を分断・混乱させ子どもたちに廃棄物を必然的に押し付ける原発をこのまま残していいのか。参院選はこの国策の責任を問う機会でもある。
一人ひとりが問われている。
クレジット以外の写真撮影/著者
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やまあき しん・ライター。