「あんこのないあんぱん」とは?

 年金は国民の老後の生活を支える重要な制度です。また、障害認定を受けた時や生計維持者が死亡した時などにも受けられ、セーフティーネットの役割を果たしています。

 一方で、特に若者世代から、「どうせ将来年金はもらえないのに、こんなに高い保険料を払うのは。。。」との声を聞きます。重く受け止める必要があります。

 少子高齢化が急速に進んでいることや経済の低迷が長く続いていることから、年金制度を維持していくために、5年に1度のペースで財政検証を行い、その翌年に必要な法律改正を行っています。

 昨年、財政検証が行われましたが、大きな問題点として指摘されたのが、今のままでは若者の基礎年金が3割減ってしまうということでした。そのため、マクロ経済スライドを早期に停止するための法律改正を今国会で行うことになっていました(図1)。

若者を見捨ててはならない!

 しかし、一部の自民党参議院議員から選挙に影響が出る?などの声が上がったようで、自民党は法律を出さないと言いだしました。私たちは「若者の年金が下がることがわかっているのに、手を打たないことは許されない!」と強く主張しました。その結果、2カ月遅れの5月に法案が出てきました。しかし残念なことに、重要な「年金の底上げ」部分は取り除かれていました。これが「あんこのないあんぱん」と言われるものです。また、会期が迫っていて、法律が成立できるかギリギリのスケジュールでした。

 厚生労働委員会の質疑では、若者の年金が大きく下がらないように「あんぱんにあんこを戻す」ように強く求め、修正案を提案しました。激しいやり取りの末、修正案が認められ、4年後の財政検証の結果を見て、マクロ経済スライドをストップすることになりました。

どのくらい年金はアップするのか?

 これにより、ほとんどの会社員・若者の年金は大幅にアップすることになりました。例えば、モデル年金である基礎6.7万円+比例4.6万円 (合計11.3万円)の現在40歳の男性は、老後20年間で246万円アップとなります。他のパターンも資料1に載せました。

資料1

 一方で一部の高齢者の年金が下がりますが、低年金者に対しては手を打つことを修正案に含めました。

厚生年金の流用ではない!

 一部のSNSや週刊誌で「厚生年金の流用」という誤解が広まっています。福岡厚生労働大臣もはっきりと、今回の修正は厚生年金の流用にはあたらないと答弁しています。上で説明した通り、厚生年金のほとんどの人の年金が上がります(図2)。

 今の制度に基づくと、会社員が年金保険料を払った場合、それは厚生年金勘定に入り、ある比率で基礎年金と報酬比例に分けられます(図3)。その比率を少し変え、より基礎年金に多くのお金が回るようにします。その場合、同額の国庫負担が投入されることになっていて、年金財政全体が膨らみます。これが年金底上げのポイントです。

 また、現在、一生のうちで厚生年金だけしか入っていない人は少なく、大多数は一時期国民年金にも入っている混在型です。

財源に責任を持つ!

 一部のSNS等で国庫負担分の約2兆円の財源の説明がないから「毒入りあんこ」だなどと批判していますが、これも間違いです。現在、基礎年金には年間 13.4 兆円の国庫負担が投入されています。修正案を実行しても、2052 年に投入される国庫負担額は、現在価値に換算すると、今と同じ年間 13.4 兆円です。

 基礎年金の財源の半分は国庫負担でまかなうというルールがあります。基礎年金がこのままだと3割カットになるので、投入される国庫負担額も自然に減っていきます。ところが、修正案でこの3割カットを防止することになるので、国庫負担額も維持されます。何もしなければ減るはずの国庫負担が、修正案を実行すると減らずに維持される、その差額が約2兆円ということなのです。全くの新規財源というわけではありません。

 さらに言えば、修正案によって差額の国庫負担約2兆円が発生する時期というのは、これから 30 年近く後 (2052 年)の見込みです。それまでの間は5年ごとに財政検証 (年金の健康診断)がありますので、その都度、財源規模がどの程度になるのか、経済の状況も含め確認することになります。

 そしてもう一点は、年金と生活保護の関係についてです。首相や厚生労働大臣からも答弁がありましたが、年金の目減りを止めないと生活に困窮する方が増え、生活保護がさらに増加していきます。基礎年金の国庫負担を減らせば、生活保護費が増えてしまいます。財源については年金と生活保護をセットで考えることが重要です。

障害基礎年金も底上げされます!

 今の障害基礎年金の1級は月額 8.4 万円です。自民党案では、これが 2052 年には 6.9万円に下がってしまう見通しでしたが、我々の修正案が実現すれば8.5 万円とほぼ同額が維持されます(図4)。

 同様に、障害基礎年金2級も、現在月額 6.7 万円のものが、2052 年に5.5 万円と下がる見通しでしたが、我々の修正案が実現6.8 万円とほぼ同額が維持されます。

就職氷河期世代とそれよりも若い世代のこと

 バブルが崩壊し、大学を卒業しても正社員で就職できない時期がありました(図5)。一度、非正規雇用やアルバイトになると、その後、正社員になることは難しく、低賃金で不安定な雇用が続きました。そういった人たちは、老後も年金が少ないのです。「世代ガチャ」という言葉がありますが、就職氷河期世代の人は努力が足りないのではなくて、バブル後の時代がそうさせたのです。その人たちの年金が更に大幅に下がることがわかり、それを放置してはならないということが、本国会の論点でした。

 実は、賃金については、世代が若くなるにしたがって低くなっています(図6)。また、貯金についても、世代が若くなるにしたがって少なくなっています(図7)。今回の法案を修正しなければ、将来、貯蓄が少なく低年金で生活できない人が多数出ることが予想できるのです。