戦後最大の国難と言われた新型コロナウイルス感染症。多くの尊い命が奪われ、飲食店やフリーランスなど収入がゼロとなった。精神的にも経済的にも大きなダメージを受けた。そして今、第二波の脅威に曝される。
 第一波のコロナ対策は十分であったか? 問題点を抽出し、反省して、第二波、第三波に備える必要がある。今回は特に無視してはならない三つの重大な点について指摘する。

「コロナ対策の3つの大罪」
 「やっとアベノマスクが届いたけれど、もういらない、無駄」との声をよく聞く。しかし、安倍政権はアベノマスクよりも遥かに大きな罪を犯していた。

1.PCR検査・空港検疫
 4、5月に日本で流行したコロナウイルスは武漢型ではなく欧州型だった。3月上旬から中旬にかけて海外から国内に流入した可能性が高いものだ。これは安倍政権も認めている。では、この時期のPCR検査はどのような体制で行われていたのか?
 3月3日に立憲民主党をはじめとする野党共同会派はPCR検査強化法案を国会に提出。PCR検査数をもっと増すべきだと何度も国会で指摘してきたが、安倍政権は完全に無視した。3月中旬ごろにPCR検査の実施能力は一日当たり7800件あったが、実際に行われたのは1500件程度だったからだ。少ない日は600件しか検査していなかった。 
 5月4日の政府専門家会議に提出された資料によると、世界的に見て日本のPCR検査数は極端に少ない。10万人あたりの検査数はドイツが3044件であるのに対し、日本は189件。何と16倍もの違いがあるほどだ。 
 なぜ安倍政権はこれほどまでにPCR検査を行わなかったのか?3月24四日頃からPCR検査が急に増え始めたことについて、国会で議論があった。橋本岳厚生労働副大臣は「医師が必要と判断した方が以前より増加したため」と答弁している。3月中旬にPCR検査をしっかりできなかったのは、医師が判断を間違えたからと言いたいのか?ちなみに3月24日は東京オリンピックの延期が発表された日だ。オリンピックを予定通り行うためにPCR検査数を制限していたのではないかとの指摘があるが、真実はわからない。この疑問に対して、安倍政権はきちんと検証して説明すべきだ。  
 3月初旬~中旬に空港でしっかりとした水際対策が取れなかったことも大問題。欧州旅行から帰国した京都産業大学の学生を中心としたクラスター感染が起きたからだ。「こんなに簡単に入国できるのかと、あっけに取られた」と成田空港でインタビューに答えた学生もいた。他国で乗り継ぎしていれば、スペインやイタリアからの帰国者でもPCR検査をすり抜けた可能性があるとの指摘は的を射ている。スペインからモスクワ経由で帰国した男性は「検疫官が対象国の方はいませんかと声掛けしているだけで非常に緩い」と腹立たしげに話している。自己申告のみで、パスポートのチェックすらなかったという。安倍政権は指定国からの帰国者は全員PCR検査を受けていると説明していている。このような声を聞けば、直ぐには信じることができない。
 大きな危機感を抱きながら、我々は成田空港の検疫体制を確認したいと厚生労働省に申し入れたが即座に断られた。現場を視察することはできなかったものの、3月中旬にできる限りのPCR検査を実施し、空港で水際対策をしっかりと行っていれば、状況は大きく違っていたはずだ。

2.新型インフルエンザ特措法
 2月27日に安倍首相は突如、全国の学校に休校を要請した。子どもたちは学校に行けなくなり、面倒を見るために親も仕事を休まざるを得なくなった。給食センターやスクールバスなどで働く人は突然仕事がなくなった。社会に大きな影響を及ぼしたのだが、この要請はどのような法律に基づいていたのだろうか。我々は一月末頃から新型コロナウイルスを新感染症に指定し、新型インフルエンザ特措法が使えるようにすべきだと主張してきた。しかし、安倍政権はこれを全く受け入れず、場当たり的な対応に終始していた。
 この特措法は2009年に流行したインフルエンザの対策を反省して作られたもので、まさに今回のような場合を想定したものだった。「緊急事態宣言」を出す前から発した後までの対応を順番に指定。医療体制や物資の供給など、どの段階に来たら国民と自治体は何をしなければならないかが明示されている。この法律を無視し、突如として学校休校を要請したのは完全に誤りだった。
 緊急事態宣言が発令されると国民の権利や自由が抑制される恐れがある。ナチスドイツの例も含めた歴史の教訓から、緊急事態宣言に慎重な意見もある。安倍首相の学校休校要請は緊急事態宣言の下で出されるべきもの。既存の法律を使わず安倍首相の独断で行ったことは、法律を無視した独裁者的な行動と言わざるを得ない。
 結局、安倍政権は新型インフルエンザ特措法を使わざるを得なくなり、3月13日に改正案が可決・成立した。その際、多くの市民から、緊急事態宣言は安倍首相ではなく国会が発令すべきだとの意見をいただいた。限られた時間の中で交渉せざるを得なかったために難航し、自民党の数の力によって「国会承認」は認められなかった。なぜ自民党は「国会承認」を認めなかったのか。国民に理由を説明すべきだ。

3.緊急事態宣言下でやるべきでない!
 検察庁法改正案が強行採決される内閣委員会の会議室はマスコミも入り、三密をはるかに超えていた。900万件を超える「#検察庁法改正案に抗議します」のツイートを背に受けて、我々は文字通り命がけで安倍政権と闘った。この重要な会議をNHKが放送しないということで、「NHKは「検察庁法改正案」を審議する国会を中継すること!」のChange.orgキャンペーンも行われた。3日間で6万人を超える署名が集まるなど、コロナ禍でも国民は黙っていなかった。
 緊急事態宣言下で外出自粛や集会中止が要請された。諸先輩達が苦労して勝ち取ってきた自由な社会が、コロナ禍で命を守るために制限されたのだ。国家の危機だからこそ、国民は要請に従った。それなのに、安倍政権は多くの国民が反対することを平然と推し進めたのだ。
 辺野古の埋立ても同じである。沖縄県がコロナ対策に追われている最中の4月21日に、安倍政権は1800ページにおよぶ軟弱地盤改良工事を行うための書類を県に提出した。県が独自のコロナ緊急事態宣言を出した翌日のことだ。玉城知事は記者会見で「(安倍政権は)県民に十分な説明をしないまま埋め立て工事の手続きを一方的に進め、到底納得できない」と批判している。
 辺野古の軟弱地盤は2年以上前から問題になっていた。十分な時間があったのに、なぜ緊急事態宣言を出している国難の時にわざわざ提出するのか。安倍政権は国民に対して十分な説明をすべきである。まさか6月の沖縄県議会議員選挙を意識して、ゴールデンウィーク前に提出したのではあるまい。総事業費が3500億円から9300億円に跳ね上がり、工期が四年以上も延びることになる。
 六ケ所再処理施設に関するパブリックコメントも緊急事態宣言下で行われた。原子力規制委員会の更田委員長に、パブリックコメントは緊急事態宣言が解除されてから行うべきことを指摘したが、受け入れられなかった。これは規制側の話であるが、そもそも安倍政権の原発推進政策に問題がある。国民はこれから原発を30基も動かすことを認めているのか。六ケ所再処理施設がフル稼働すると、川内原発の四億倍の放射性物質が大気に、福島第一原発にたまっている処理水の20倍相当のトリチウムが海洋に毎年放出されることになる。国民がコロナで一杯一杯の時に、このような開発が密かに進められているのだ。
 国民の権利と自由が抑制されている緊急事態宣言下に行うべきでないことを平然と行う政権が、本当に国民のことを第一に考えているのだろうか。はなはだ疑問が残る。
 以上が安倍政権のコロナ対策における三つの大罪である。お亡くなりになった方々、事業が行き詰ってしまった方々のことを思うと、これらをこのままうやむやにすべきではないと思った。改めて記すが、我々が3月3日に提出したPCR検査強化法を完全に無視したこと、インフルエンザ特措法の早期適用の提案を無視したこと、緊急事態宣言下で多くの国民が反対することを平然と推し進めたこと、これらは簡単に許されるべきことではない。これらをきちんと行っていれば、状況は大きく違っていたと確信する。

2020年7月24日号「第一波コロナウイルス対策は適当だったか」