6月末から7月初旬にかけて実施したイスラエルとパレスチナ視察についての記事が月刊千葉ニュータウン(第218号 令和元年8月10日発行)に掲載されました。(以下本文)


イスラエルとパレスチナを訪問して

国民の生命と財産を守るサイバー防衛を考える

衆議院議員 みやかわ伸

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右:ムハンマド・シュタイエ パレスチナ首相、左:みやかわ伸 衆議院議員

日本の安全保障政策はどうあるべきか?
 日本の安全保障政策はどうあるべきか?どうしたら平和な世界が作れるのか?日々、自問自答する。「野党は反対ばかりで、政権を任せることはできない」とよく言われる。民主党政権時のショックは相当根深い。先日終わった参議院選挙の投票率は48.8%。戦後二番目に低い数字となった。これも国民の政治に対する不信感の表れであろう。

 国の重要な仕事の一つは国民の生命と財産を守ることである。野党も国民に信頼してもらえる安全保障政策を用意し、政権交代に備える必要がある。集団的自衛権を一部認めた安保法制や沖縄辺野古の米軍基地、自衛隊の国際貢献などの諸問題、またF35戦闘機は何機必要なのか、イージス・アショアを含めたミサイル防衛システムはどうあるべきか、いずもの空母化は本当に必要か、などなど、幅広い課題が山積する。当然、政治家はある程度の専門知識や世界のトレンドを把握している必要がある。

超党派議員6名でイスラエルとパレスチナを視察
 国会終了後、参議院選挙が始まるわずかな合間をぬって、政策大学院大学の企画でイスラエルとパレスチナを視察した。自民党4名、国民民主党1名と立憲民主党の私を含む6名の国会議員が参加した。イスラエルでは空軍基地、8200部隊、ベエルシェバにあるサイバースパークなどを訪問するとともに、リクード党のディヒテル外交防衛委員長と会談した。パレスチナではシュタイエ首相と会談し、ジェリコ農産加工団地を訪問した。

 イスラエルのサイバー技術を見聞することが主な目的の一つであった。イスラエルには8200部隊と呼ばれるサイバー攻撃・防御の先鋭部隊がある。インテリジェンス(諜報活動)も担っており、エドワード・スノーデン氏がいたアメリカのNSAに相当する。約5000人の兵士が所属する超エリート集団だ。イスラエルには徴兵制があり、男性は3年、女性は2年の兵役義務がある。そのうちの最も優秀な若者が8200部隊に入る。規模的にもイスラエル国防軍17万人の約3%にあたり、いかにイスラエルがサイバー・インテリジェンスを重要視しているかわかる。

 イスラエルはガザ地区のハマスやシリアのヒズボラからロケット弾攻撃を受けている。2018年には754発が飛来したと報告されている。このロケット弾のほとんどは迎撃ミサイルで撃ち落とされるが、その迎撃システムを作動させないようにサイバー攻撃を受けるらしい。イスラエルは、これを防ぐためのセキュリティーシステムを整備しているとのことであった。

サイバー防衛の重要性
 兵役を終えると、その技術を基盤としてベンチャービジネスを始める者がいる。サイバーセキュリティ―ソフトメーカーであるチェック・ポイント社やアルグス・サイバー・セキュリティ社など、いくつもの会社が8200部隊出身者によって創られている。近年、サイバー攻撃は増え続け、世界経済フォーラムが発表した報告書によると、サイバー犯罪による経済損失は110兆円に達する。クラウドシステムや自動運転システム、5G時代の到来など、ますますサイバーの重要性が増す中で、そのセキュリティーは極めて重要な課題である。イスラエルは軍事部門にとどまらず、金融システムを始めとした民間部門のサイバーセキュリティ―にも力を入れている。その集積地がベエルシェバにあり、世界拠点となりつつある様子を見ることができた。

 こんな興味深い話を聞いた。自分の口座から10万円が勝手に引き出されていたら人は直ぐに気が付く。しかし100円なら「おかしい」と思ってもいちいち調べはしない。もし1億個の口座から100円ずつ引き落とすとしたら100億円を手に入れられる――。サイバーセキュリティ―の体制をしっかり整えないと、このようなことが世界規模で起こってしまう。そして、そういったお金がテロ組織に流れる可能性がある。

 日本は1機100億円を超えるF35戦闘機を147機、イージス・アショアを2基2400億円で購入することを決めるなど、ハード面にかなりの予算を割り当てている。それに比べてサイバー防衛やインテリジェンスにかける費用は少ない。民間のセキュリティー対策を含めて、もっとサイバーに力を入れるべきではないか。表側を鉄の鎧で固めても、裏側が裸では本当に守るべきものを守れない。

中東問題の深刻さを実感
 パレスチナのシュタイエ首相と面会する機会を得た(写真)。パレスチナは経済的に厳しく、ガザ地区では失業率が40%を超える。一人当たりのGDPはイスラエルの1/10以下で、軍事的だけでなく経済的にもイスラエルと大きな格差がある。シュタイエ首相は、日本が取り組んでいる「平和と繁栄の回廊」構想を高く評価していた。ヨルダンとの国境近くにあるジェリコ農産加工団地はその一つで、一期目の開発が終わった。オリーブ葉サプリメントやオーガニック石鹸などのパレスチナ民間企業が15社入居している。現在二期目の開発が進んでおり、完成すると3400人の雇用が見込まれている。

 イスラエルの政治家や政府関係者と会い、また、パレスチナの首相と会って、改めて中東問題の深刻さを実感した。イスラエルはイランの核開発を非常に気にしていた。関係者と直接話をしてその切実さを肌で感じ、アメリカが核合意から離脱した理由の一つを垣間見た気がした。日本はジェリコの事業をしっかりと推進し、人道支援に力を入れ、中立の立場で和平に貢献すべきであると改めて思った。
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